BBS - デアイ

 自分でも思っていたより小さな声だった。
 これでは聞こえないとまたすごまれてしまうだろうか。
 少女――朔は不安に思ったが、幸いにもその予想は外れる。
「朔……月の名か」
 背後の男が、ぽつりと呟いた。
「月の奴か!?」
 そして、正面の男がとても嬉しそうに、不敵な笑みを浮かべる。
「俺達の方の女も珍しいけど、月とはなぁ……。かなりレアなんじゃねぇ?」
「そうだな。それに月のは血の力を増幅させると聞いたことがある」
 男達は朔を挟んだまま話を進めている。
 その話の内容は全くの理解不能。
 彼らが何の話をしているのかさっぱり分からなかった。
(月? 珍しいとか、血とか……何を話してるの?)
 増える疑問は不安を増すばかり。
 男達は尚も朔を挟んだまま会話を続けるが、やはりその内容は理解出来なかった。
 この状況でどう行動するべきなのか。それを考えながら周囲を見回す。
 そして、周囲の反応に心が冷めていくのが分かった。
 さっきと変らない反応。
 関わらないように、こちらを見もせず足早に通り過ぎていく人達。
 何人かちらちらと見ている人はいても、助けようとしてくれる人間は一人もいない。
 見ただけで絡まれているというのは分かり切っている構図だと言うのに……。
(でも、当然だよね……。私でもそうするだろうし……)
 危険なこと、嫌な思いをするようなことはずっと避けてきた。
 自分で何とか出来ることならまだいい。
 でも、そうでないときは……。
 嫌な思いをしても愚痴を聞いてくれる人はいない。危険な状況になっても助けてくれる人もいない。
 両親が生きていた頃は違っていただろうが、亡くなってからはずっと一人だった。
 引き取ってくれた伯父夫婦も、自分を守ってくれる存在ではなかったから……。
 諦め。冷めた心。
 そう、朔は孤独に慣れてしまっていた。
「いいじゃん、この女俺達のにしようぜ?」
 男達の会話の焦点がまた自分に戻っていることに気付き、朔は現実に引き戻された。
(そうだ、この状況からどうにか抜け出さないと)
 気を改めた朔は正面の男に視線を戻した。
 一度冷めた心は冷静さをくれたようで、先ほどよりは怖いと思わなくなっている。
「でも、バレたら……」
 背後の男が躊躇ためらいがちに言うと、正面の男が何の前触れもなしに朔の胸倉を掴んだ。