澄んだ空に
熱を帯びない光の下、男が一人立っていた。
煌々と輝く月は太陽程の力はなく儚げで、触れてしまえば薄氷のように簡単に壊れてしまいそうだと男は思った。
だが、壊れはしない。
例え本当に触れただけで壊れるのだとしても、第一に手が届かないのだから。
「壊したくとも触れられない。……まるで俺とあいつ等のようだな」
見上げたまま、自嘲するように笑った。
男が壊すモノ達――鬼。
男の一族は代々その鬼達を討伐してきた。
初めは帝の
今は一族の存続のためという理由の方が大きい。
鬼を狩る“桃太郎”の一族・
それが男が生まれ、育ち、守るための家の名だ。
だが、肝心の鬼が見つからない。
いないわけではない。
確かに鬼はこの日の本の国に存在している。
事実、20年前に吉備の一族は鬼の一族の討伐を実行していた。
男も、当時の事は先々代の当主から聞いている。
そしてその20年前の討伐で落ち延びた鬼がどこかに隠れ住んでいるはずなのだが……。
ふぅ、と軽く息を吐いた男は、感情の読み取れない目を細め地へと視線を戻した。
現代では珍しい寝殿造りの屋敷。
その広い庭園が男の漆黒の目にぼんやりと映った。
(鬼の居場所か……俺が考えても仕方のないことだな……)
そう、仕方のないこと。
男の役割は鬼を壊すことであって探すことではない。
探すのはもっと下の者達の役目だ。
男はその報告を待っているだけでいい。
とはいうものの、待つという行為は酷く退屈なものだった。
鬼を壊すための
それからもう2年も待ち続けている。
元々気の長い方ではない男にとって、その年月は長すぎるものだった。