(でも……鬼? 何を言ってるのこの人)
 通常の生活をしている上ではほとんど使わない単語に、朔の男に対する不信感は増す。
 そんな朔の思いを知ってか知らずか、男の言葉は続いた。
「鬼に反応して鳴るとは聞いていたが、まさか所持した上でそいつに触れなければ鳴らないとはな」
 男は自嘲し、顔を上げた。
「しかも、始めて出会った鬼がこんなに弱そうな女鬼だとは……」
 鋭い眼差しが朔を射る。
 ただし、その目にはもう冷たさは無かった。
 それどころか徐々に熱を帯びてくる。
「だが、俺の獲物には変わりない」
 そうして笑った男の目には先程までの冷たさは欠片もなく、燃え上がるような熱が宿っていた。
 それは、さっきの男達とはまた違った危険性を孕む熱。
 男は自分に害をなす。
 理由は分からないが、朔はそう悟った。
 その瞳の熱は、狂気すら含んでいたから……。
 男は朔の肩から手を離すと刀の柄を握る。ゆっくりと抜かれた刀身は木漏れ日を受け銀に輝いた。
 朔は恐怖に身を強張らせながらそれを美しいと思う。冷徹な美しさだ、と。
 その凍えるような美しさにまさかと思う。
(まさか……真剣?)
 本物の斬れる刀なんて見たことはない。見たとしてもきっと分からないだろうと思っていた。
 だが、目の前にあるその刀は刃を潰された観賞用のものとはまるで違う存在感を持っている。
(でも、それじゃあ銃刀法違反……)
 実際に真剣を持っている人がいるのは知っていた。
 だが、そういう人達はちゃんと許可を取っているはず。
 どう見ても、自分と同じ年位の男が許可を持っているとは思えなかった。
 だが――。
 引きぬかれた刀身が、朔の首元に狙いを定める。その拍子に彼女の胡桃色の髪が数本地面へ向かって落ちてゆく。
「――っ!」
(真剣!?)
 本物だと理解した瞬間、朔の体に緊張が走る。
 恐怖も相まって全身が小刻みに震えた。
 触れただけで切れてしまうような刀が自分の首を狙っている。
 男が力を込めて一振りすれば、一瞬で朔の首は飛んでしまうのだ。
「い、嫌……」
 引きつった喉で必死に絞り出す。
 何故こんな目に遭っているのか。その理由を考えようとはもう思わない。
 守られることを諦めた。
 助けられることを諦めた。
 幸せになるということも、諦めた。
 それでも一つだけ諦めきれなかったものがある。
 どうしても、望んでいるとは自分でも思っていないのに諦めきれなかった。
 ――生だけは。
 死を目前に感じ、ただ生きることだけを願う。
「助けて……」
 助けすら諦めていたはずなのにそれを望む。ただ、生きるためだけに。
 朔の声が聞こえているであろうに、男はただ笑って言葉をね退けた。
「諦めろ。俺は第68代“桃太郎”・吉備 里桃。お前の命、貰い受ける」
 宣言し、男の腕に力が込められる。
 次の瞬間、死んだと思った。





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