赤い編み紐に括り付けられた鈴は、チリン……チリン……と定期的に鳴っている。
男の掌の上で、少しも動かされてはいないというのに……。
「何……?」
鈴は、動かさなくても音を鳴らせるものだっただろうか?
ピクリとも動いていないのに、こんなに何度も音が鳴るものだったろうか?
そんなことはない。そんなこと、あるはずがない。
では他に鈴があるのか。それもまた違う。
音は、確かに男の掌の上から聞こえてくる。
「何よ、これ……?」
おかしな光景を目にし、朔は戸惑いながら男から離れた。
チリ……ン……
すると、途端に音が止む。
「え……?」
突然聞こえなくなって、さっきのは幻聴だったんじゃないかと一瞬思う。
でもそれはない。
確かに動いていないのを見て、そしてその音を聞いてしまった。
だがなぜ突然止まったのか。
分からなくて朔は尚更戸惑う。
そんな朔を男はじっと見つめる。
「お前……まさか……」
信じられないといった面持ちで呟き、朔に近づく。
さっきまでとは違う男の様子に、朔は思わず後退りした。
だが、低い声で「動くな」と命じられてしまう。
従う義理はなかったが、男の低い声が朔の体を金縛りのように縛った。
動けなくなった朔は簡単に捕まる。刀を掴んだままの手が肩を押さえた。
チリン……チリン……
すると、また鈴が鳴り始める。
(幻聴じゃ、無かった……)
男の掌の上を見ると、やはり鈴はピクリとも動いてはいない。
「どうして……?」
疑問を口に出すつもりはなかった。
でも何故鈴が鳴っているのか分からないし、あり得ないと思う。するとそのつもりは無くても口から出てしまっていた。
だから、答えを求めるつもりで言ったわけではない。
言ったところで、理由を知るであろう男が答えてくれるとは思わなかった。
だが、自分の掌を見つめていた男は視線を鈴に向けたまま口を開く。
「この鈴は、鬼に反応する……」
予想外に説明を始めた男に驚いたが、すぐに朔は自分の疑問に答えてくれているわけではないことに気付く。
男は、鈴の説明をしてくれていると言うよりはその鈴がどういうものなのかを声に出して自分で確認しているように見えた。