紫苑と別れた里桃は裏口から屋敷に入った。
 わざわざ正面に回って玄関から入ると自室は遠い。裏口から入った方が早かった。
 本家では周りが五月蝿うるさくて出来ないことだが、この屋敷には里桃と紫苑しかいない……今は。
 そう、今はだ。
 鬼の住処が分かって、翌日には本家を出たから紫苑しか連れてこなかった。
 だが、当主に従者が一人しか付かないなど許されるわけがない。いずれ他の二人もここに来るだろう。
わずらわしい)
 紫苑以外の従者二人を思い浮かべ、苛立ちが湧きあがる。
 あの二人はそれぞれ理由は違うが、どちらも里桃を当主と認めていない。
 形式上敬ってはいるが、それも周りの目があるときだけだ。
 周囲の目がなければあの二人は自分に危害を加えかねない。
(まあ、どうせ渋ってここに来るのは遅くなるだろうがな)
 二人の嫌そうな顔を想像し、フンと鼻で笑った。
 階段を上がり、二階にある自室に着くと苛立ちを払うかのように思い切りふすまを開いた。
 バシン、と派手な音が鳴る。
 そのまま襖を閉めずに中に入ると、紺色のブレザーが壁に掛けられているのに気付いた。
「転校先の制服か……だが、これは……」
 その制服には見覚えがあった。
 当然だ。つい先程見たばかりなのだから。
 あれは所々破れてはいたが同じタイプの制服だった。……女物ではあったが。
 里桃は、その色につい先程のことを思い出す。
 偶然にも見つけた鬼。探し求めていた宝。
 だが、始めて会った鬼はあまりにも弱々しかった。
 女というのもあるのだろうが、それを差し引いても鬼というには不十分だ。
(俺はあんなものを狩りたかったわけじゃない)
 戦い、力でねじ伏せ、そうしてから壊したいのだ。
 なのにあの女鬼は戦うどころか抵抗らしい抵抗を見せなかった。
 死の寸前になっても、鬼としての力は何一つ見せない。里桃はそれが不満だった。
 だから見逃した。
 あの女鬼は男二人に襲われていてボロボロだったし、疲れ果てていた様子だった。だから力が使えなかっただけなのかもしれないと思ったから。
 違ったとしても、次に会ったときは今よりましだろうと思った。
 それに、他にも鬼を名乗る者達が現れた。
 和装の女の方はどうか知らないが、少年の方はそこそこ出来るはずだ。
 村正を振るう寸前、あの僅かな瞬間に的確な位置めがけて棒手裏剣を放つのはそう簡単なことではない。
 本当に鬼なのかは確かめられなかったが、あの和装の少女は嘘を言っているようには見えなかった。
「……何にせよ、この辺りに鬼が住んでいることは確かのようだな」
 今日はそれが分かっただけで良しとしよう。
 どうせすぐに会うことになる。早ければ明日。
 この紺地の制服は、あの女鬼の通う高校のものと同じなのだから……。





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