華が持ってきてくれた夕食はとても美味しかった。
 メインは煮魚で、肉をあまり好まない朔にとって願っても無いごちそうだった。
 量も正方形のお膳に乗るものだけで、丁度良い。
 まるで自分のために作られたお膳のようで、思わず聞いてしまうと。
「月鬼の一族は小食なの。それに月にいたころからお肉は食べなかったらしくて、食べれるものと言ったら魚肉くらいなのよね」
 月にいたころからなどと、また訳の分からないことを言われて首をひねると「それも後で話すわ」と先に返されてしまった。
 そのあと華は、「食べ終わった頃にまた来るから」と言い残して一度席を外した。
 それからしばらく経つ。
 少ない量の夕食はそれほど時間を掛けずに食べ終えた。
 だが、食べ終えてから結構な時間が経っている。食べ終えるのが早かったのだとしても、遅すぎる。
 個室に一人で待たされると不安だ。
 部屋に時計が設置されていないのがさらに不安をつのらせる。
 いっそここを出て華を探してみようかと思った頃だった。
 トストスと、襖の向こうで聞こえた足音がこの部屋の前で止まったのは。
「朔さん、失礼してもいいかな?」
 襖向こうから掛けられた声は男のもの。当然華ではないし、記憶にある黒眼黒髪の少年月人の声とも違った。
 誰なのか分からなくて答えに困っていると、「入らせてもらうよ」という声が聞こえ襖がゆっくりと開いた。
 真っ先に目に入ったのは胡桃色の長い髪。天然パーマなのか少し波打っている。
 その長い髪をゆったり一つにまとめ、前にらしている。
 端正な顔に浮かぶ優しげな頬笑みと、落ち着いた藍色の和服が彼の温和そうな雰囲気にとても合っていた。
 部屋の中に入り襖を閉じたその男は、ある程度の距離を取って膝を折る。
 無遠慮に女性の床に近付かない。
 紳士的な人なのだなと、朔は幾分ほっとした。
「待たせてしまって申し訳ない。華は今君の家の方に話をしているところだけど、少し説明に手こずっているみたいでね」
 苦笑しながら、華がなかなか来ない理由を話してくれる。
 歳は二十歳位だろうか。大人びた雰囲気を持っているのに、話すと少年のような明るさが見え隠れしていた。
 そんなところが華に似ている様な気がした。
 そういえば顔もどことなく似ている。
「あの、貴方は……?」
 なんとなく予想は出来たが、確かめる意味も込めて聞く。
「あ、すまない。自己紹介もしないで」
 申し訳なさそうに苦笑した男は、姿勢を正して名乗った。
 そんな姿も、華に似ている。
「僕は御津木 玉兎ぎょくと。華の兄だ」
(やっぱり)
 朔は微笑ましい気分でそう思う。
 優しそうな玉兎を見ると仲の良い兄妹なんだろうなと想像出来た。
 華の兄というだけで、朔は彼に気を許し始めていた。
 今までずっと一人で、助けてくれる人などいないと思っていた朔。
 自分は孤独で、優しくしてくれる人などいないと諦めていた。
 そんな彼女にとって、始めて自分を助けてくれて優しく接してくれた華はすでに大きな存在になっているようだ。
 今はまだ慣れない優しさに戸惑うこともあるが、いつかその優しさを返せる日が来るだろうか。
 そんなことを願いながら、朔はぎこちない頬笑みを浮かべた。
 そんな朔の笑顔に玉兎が頬笑み返したとき、廊下にドスドスと大きな足音が響いた。





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