華と玉兎は、朔の言葉を頬笑みで受け取る。
「さて、じゃあ他に何か質問はある? ついでだし、今のうちに聞きたいこと言って?」
 緊迫した雰囲気が去り、華が明るく言う。
 生き生きとした彼女の様子を見ると、こちらが本来の性格なのだろうと思った。
 朔は少し考える。
 聞きたいことは一応ある。だが、はっきり言って大した問題とは思えないことだった。
「ほら、遠慮しないで」
 だが華がそう言うので、朔はおずおずとその疑問を口にした。
「その……。私の名前が月の名前って……どういうことですか?」
 すると華は――玉兎までも、目を数回瞬いた。
 どうやらその質問が意外だったらしい。
 二人の反応に自分が馬鹿なことを聞いたように思えてうつむいてしまう。
「あ、ごめんなさいね」
 朔の様子に慌てて謝る華。だが……。
「朔って名前は分かりやすいのにな、と思っちゃって」
 本人はフォローしようとしたのだろうが、その意味を全く成していない言葉に朔はグサリときた。寧ろえぐっている。
(やっぱり馬鹿なこと聞いちゃったんだ)
 俯いていた顔を赤くし、本格的に恥ずかしくなる。
「華!」
 玉兎がたしなめるように名を呼んだが、遅いというもの。
「あ……」
 玉兎に叱られ華は気付いた様だったが、口にしてしまったものは戻せない。
「え、えーっと……。そうそう、貴女の名前ね!」
 そして華は、自分は何も言っていないとでも言うように無理やり誤魔化した。
「朔っていうのは朔月のことよ。つまり、新月のこと」
 簡単に説明してくれた華に続き玉兎が口を開いた。
「さっき話したけど、“桃太郎”は今も僕達を滅ぼそうとしている。数十年開けて討伐を繰り返しているんだ。そのため月鬼の一族は散り散りになってしまうことが多い。だから分かりやすいように月に関する名前を付けるようにしているんだ」
「そうそう。月人なんてしっかり名前に『月』が入ってるし、兄様は兎がいる玉の月という意味があるわ」
 そこまで話を聞いて疑問が浮かぶ。
「え? でも華さんは……?」
 『華』という名前は、月と何の関係があるのだろう。漢字そのものには意味はなさそうだが……。
「あ、私はちょっと違うの。名字に『月』が入ってるから」
 名字と言われ、先程聞いた名を思い出す。
 確か御津木と言った。『月』は入っていない様に思う。
 顎に手を当て考え込んでいると、玉兎がそれを説明してくれた。
「御津木の津木は本当は『月』なんだ。つまり御月。月そのもののことを言っているんだ」
「月鬼の長となる血筋の者はその姓を名乗るから、名前には『月』を入れないの」
 そして、また疑問が浮かぶ。
 御津木の姓を名乗っている人は名前に『月』を入れないのなら、玉兎はどうなのだろう。
 今、彼にも『月』を意味する名が付けられていると聞いたばかりだ。
 朔は一瞬迷い、聞くことにした。
「あの、でも玉兎さんは……?」
 その瞬間、僅かだが華の表情が強張った。
 普通であれば気付かないところだが、いつも他人の顔色を見て生きてきた朔にははっきり違いが分かる。見逃すはずはなかった。
(やっぱり、聞かなければ良かった)
 思い、もう二度と余計な質問はすまいと心の中で誓う。
「僕の場合はいずれ御津木の家を出る身だからね」
 華とは違い、少しも顔色を変えない玉兎が答えた。
「華は貴重な女鬼だし、力も強い。長の家の繁栄のためにこの子が御津木の家を継いで後継ぎを育てるんだ」
 だからだよ。と、何でもないことのように言う。
 華の反応を見るとそこまで軽い問題ではないのだろう。
 だが、朔に何が言えるのか。何も言えるわけがない。
 月鬼のことも今知ったばかりだというのに、良く知りもしない御家事情になど口を出せるわけがない。
 朔が出来ることといったら、話題を変えることくらいだった。
「そう、なんですか……。あ、それで分かりました。あの人達が私の名前、月のがどうとか言っていた理由が」
『え?』
 朔の言葉に、今度は二人とも顔色を変えた。





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