ギシギシと、古い木造の廊下を二人で歩く。
 家自体が古いため、夜になると廊下は暗い。
 隣を歩く兄・玉兎の顔もぼんやりとしか見えなかった。
 この家は月鬼の長である父の別邸だ。“桃太郎”の襲来に備え、落ち延びる場所として各地に建てられたものの一つ。
 何十年も前に建てたものだから、もうそろそろガタがきていると華は思った。
 それでもどこの家よりここは安全だ。朔にとっても、自分にとっても……。
 いざというときは守ってくれる同胞どうほうが何人もいる。
 そして何より、家そのものに結界が張ってある。
 たとえ里桃がここを見つけられたとしても、そう簡単に入ってくることは出来ない。
(だからこそ私は、この家からほとんど出たことが無いんだもの)
 貴重な女鬼。他の鬼からも狙われやすい。
 朔に言った言葉は、そのまま華にも当てはまることであったから……。
 しかも華は長の娘。月鬼の強き血を残すために無くてはならない存在だった。
 周囲に怪しまれるのも厄介なので、義務教育の九年間は学校に通った。
 だが去年中学を卒業してからはずっとこの家の中で過ごしている。
 今年に入って外に出たのは今日が初めてだった。
 守護者兼お目付け役の月人を言いくるめて、朝目覚めた瞬間に感じた気配を追った。
 その先にいたのが、刀を向けられ今にも殺されそうな状態だった朔だ。
 ご意見番の爺様達にはこっぴどく叱られたが、行って良かった。でなければ朔は確実に殺されていただろうから……。
 自分と同じ、貴重な月鬼の女。
 諦めを心に貼り付けた同い年の少女。優しさに戸惑い、涙をこぼすほど感謝した素直な心を持つ少女。
 先程の涙を思い出し、尚更守ってあげたいと思った。
 この家にいれば自分と同じように強い血を持つ子を産むよう望まれるだろう。
 そんな一族のエゴからも出来る限り守ってやりたい。
(そのためには……)
 と、隣の兄を仰ぎ見た。
「……ねえ兄様?」
「ん? なんだい?」
「兄様は、朔さんのことどう思う?」
 華のぶしつけな質問に、玉兎はちらりと視線をやって僅かに笑む。
「そうだね……。可愛い子だと思うよ。守ってあげたくなるね」
 その答えに華はしめたと思う。
「じゃあ守ってあげて。全てのものから」
 目を見て真剣に言ったつもりだった。だが、玉兎はフフッと声を上げて笑う。
 何故笑うのか分からなかったが、次の言葉でそれを知り華は恥ずかしくて顔を真っ赤に染めてしまった。
「お前の考えてることくらい分かるよ。僕に、彼女の婚約者になって欲しいんだろう?」
「うっ……」
(バレてる……)
 今のまま放っておけば、いずれ朔は爺様達の計らいで色んな男の子供を産ませられるだろう。子を作る道具として……。
 嫌悪しか抱けない思惑。そんなはかりごとに朔をはまらせたくない。
 だが今のうちに婚約者でも立てておけば、表立っては手出ししにくくなる。
 それに玉兎であれば爺様達も納得するはずだ。
 爺様達は強き血を求めている。長の息子である玉兎は当然ながら強き血、強き力を持っているから。
(それに……)
 それに、強き血を持つ貴重な女鬼を妻とすることで、玉兎への一族内の評価が上がると思った。
 長の息子で、強き血と力を持っていると言っても所詮は男。良き妻がいなければ、その強き力も一代限り。
 ……そのように言われているから。
 華が産まれなければそのように言われることは無かっただろうが、産まれてしまった時点で玉兎は用済みの判を押されてしまったのだ。
 玉兎自身は気にしているそぶりなど見せたことはないが、華はずっと気にしていた。
 だが、余計なお世話だったろうか。
 笑っている玉兎を見てそんな思いが浮かんでくる。
 そうして俯いた頭の上に、ポンと大きく温かい手が乗せられた。
「そんな顔をしなくても良いよ、華」
 全て分かっている上で、包み込んでくれるような優しい言葉。
 華はそんな兄がやはり大好きだった。
「朔さんのことは……そうだね。彼女さえ良いと言ってくれるなら僕は構わないよ。というか、大歓迎だ」
 最後の方を少しおどけて言った玉兎に、華はやっと笑顔を見せる。
「ふふっ。兄様ならきっと大丈夫よ。最初は戸惑うでしょうけどね」
 真っ赤になって戸惑う朔の姿が目に浮かぶ。
 きっと物凄く動揺するだろう。
 でも、嫌がったりもしないだろうとなんとなく予想出来た。
 そしてその予想は見事に適中することとなる。





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