「へ?」
すると月人は、そんなことを言われるとは思っていなかったのかキョトンとした表情になる。童顔がさらに幼く見えた。
「あ、あの。昨日里桃に殺されかけてるところを助けて貰って……。本当はもっと早くお礼を言いたかったんですけど……」
朔は焦りながらも何とか伝えようと言葉を紡ぐ。
そんな様子が可笑しかったのか、月人は声を上げて笑いだした。
「っ、はははっ! 何だよ、別に良いのに。てか何だよ。あんた全然普通の
さっきまで不機嫌だったはずの月人が急に笑い出し、朔はぱちぱちと瞬いた。
「つーかさ、何で敬語? 歳オレと同じなんだろ? さん付けとか止めてくれよ」
「え? あ、じゃあ月人くん……?」
「ん。それでいいよ。オレも朔って呼ぶから」
先程までとは打って変わって明るく話す月人に、朔はなかなかついていけずにいた。
(緊張してたって、目つき悪かったのはその所為? でも怒らせたのは本当で……。ただもう怒ってはいなかったってこと?)
頭の中では疑問符ばかりが浮かぶ。
だがそれをいちいち聞くわけにもいかず、朔はただ月人の笑いが治まるのを待った。
少しして落ち着いた月人は、困り笑顔を朔に向ける。
今から話すことに、申し訳ないと先に謝っているかのような表情だ。
「えっと、それでさっき言ってた話なんだけどさ……」
「は、はい」
やっと本題が聞けると思い朔は知らず背筋を伸ばした。
月人はそんな朔に苦笑を漏らしながら話し始める。
「オレさ、正直言ってあんたの守護者になるの納得してないんだ」
それは今朝の様子を見れば一目瞭然。
分かっていたことだったので、朔はコクリと頷いた。
「オレはずっと姫様――って、華様な。あの人の守護者だった。オレはそれが……なんつーのかな。誇り、だったんだ。あの人を守りたい。あの人を守るのはオレの使命だって」
そこまで言って、月人は照れたのか頬を軽く掻く。
「だから、別にあんたが嫌いだからってわけじゃないんだ。……年下に見たことは腹立つけど……」
後半ボソリと呟いた言葉も朔には聞こえた。
今はもう怒ってはいなくても根には持っているらしい。
「まあ、そういうことでオレは心からあんたの守護者になることは出来ない。それだけは知っておいてほしかったから……」
また、申し訳なさそうな顔をする。
心から守護者になることは出来ないと言いながらも、それを申し訳ないと思う優しい心も持っている。
朔にとっては、その優しさだけで十分だった。
「もちろん“桃太郎”とか火鬼とかからは守ってやるぜ? 納得してないって言っても姫様の命には変わりないし!」
申し訳なさからか、慌てて言い募る月人に朔は少し噴出した。
こんなところは幼げで、やはり可愛いと思ってしまう。
言えば絶対怒るだろうから口には出さないが。
「なっ!? 何笑ってんだよ!?」
「ご、ごめんなさい」
謝るが、緩んでしまった頬は戻ってくれなかった。
「何それ? 本気で悪いと思ってないだろ!?」
月人は非難の声を上げるが、怒っているわけではなさそうだ。
顔を赤らめて、大いに照れている。
「もういい! ほら行くぞ!」
そう言って月人は歩調を速めて先に行ってしまう。
朔はそんな彼の背中に小走りで付いて行った。
華といい、玉兎といい。月人といい。
彼等はどうしてこんなに優しいのだろう。
どうしてこんなに気にかけてくれるのだろう。
不思議な気持ちではあったが、嫌な気分ではなかった。
嬉しい。幸せだと感じる。
そんな朔の頬の緩みは、もうしばらく引き締まることはなかった。