ざわざわと、教室の中が賑やかになってくる。
「おはよー」
「ねえ、昨日さー……」
 クラスメート達が諸々話に花を咲かせているのを、朔は窓際の一番後ろの席で見ていた。
 昨日無断欠席したと言うのに、朔に「何かあったの?」と一言も聞いてくる人はいない。
 でもそれはいつものこと。……そう、いつものことなのだ。
 いるかどうかも分からない。出席などで名前を呼ばれ、やっと「ああ、そんな子いたっけ」と思われる程度。
 学校での朔の存在はその程度のものだった。
 友達とおしゃべりをしたり、一緒に遊びに行ったり。
 それを羨ましいと思っていた時期もあったが、もう慣れてしまった。
 いつもの光景をただ見ているのも飽きてきて、朔はフイと窓の外に視線を向ける。
(月人くん、どこにいるんだろう……)
 黒眼黒髪の童顔少年を思い浮かべる。
 校門近くの辺りで彼とは別れた。
 学校関係者ではないからこっそり校内に入り込んで見守ってると言った彼は、そのまま人目を忍んで学校の塀を軽々と飛び越えた。
 細身の彼の体のどこにそんな体力があるのだろうと一瞬目を疑ってしまったが、昨日の火鬼達のことを思い出す。
 人では有り得ないような動きをする彼等。あれが鬼の力だと言うのなら、やはり月人も鬼だと言うことだ。
(私も……鬼、なのよね……?)
 説明は聞いた。半信半疑ながらも鬼というものが存在しているのも理解した。
 だが、自分が鬼だと言うのはまだ実感が湧かない。
 月人のように身体能力が人と格段に違うなど明らかに違う部分があるなら分かりやすいが、そのようなものは無い。
 鬼の力に関しては詳しく聞いていないが、男と女では違うのだろうか。
 少なくとも、自分に人とは違った何がしかの力があるとは思えなかった。
(でも、ちゃんと聞いた方が良いのかな?)
 自分にも何か力が使えれば、里桃や他の鬼達から逃げ隠れることくらい容易たやすく出来るかもしれない。
 そうすれば月人や玉兎など、守ってくれると言ってくれている人達の負担も減るだろう。
 だが、質問をすると昨日のように華達に嫌な思いをさせてしまうかもしれない。
 必ず嫌な思いをさせてしまうと決まっているわけではないが、その危険は出来る限り避けたかった。
 朔は数秒考え込み。
(よし、機会があったらさりげなーく聞いてみよう!)
 ということで落ち着いた。
 丁度その時、廊下からバタバタと駆け足の音が聞こえ、教室のドアが勢いよく開け放たれた。
「ねえ! 今日三年に転入してくる人見た!?」
 バン! というドアの音にも負けない声で、駆け込んで来た女生徒が大声で言った。
 あまりの勢いに朔もそちらに目を奪われてしまう。
 その子は仲の良い子達のグループに近づくと、興奮した様子で話し始めた。
「今さ、職員室に行ったらその転入生がいたの!」
 周囲にも構っていられないほど興奮しているのか、その声は教室中に響く。朔でなくとも、クラスメートはその子に注目していた。
「あんたらも見て来なよ! すっごいカッコイイから!」
「えー? そんなに?」
「でも好みとかもあるじゃん。どんなタイプ?」
 彼女の友人達が面倒そうに言うと、彼女は机をバンバンと叩いて説明した。
「一言で言うとクール! 切れ長な目が涼やかで、何かちょっと一匹狼系な雰囲気! あーあれで俺様だったらあたし超好みなんだけど!」
「えーマジで? あたし見て来よっかな?」
「あ、じゃああたしはパス。タイプじゃないや」
 その後も彼女達の大声会話は続いたが、朔はもう聞いてはいなかった。
 クール。切れ長で涼やかな目。一匹狼系な雰囲気。
 それらに思い当たる人物を知っていたから……。
 殺されかけたのはつい昨日のこと。忘れるわけがない。だが……。
(そんなわけないわよね。いくらなんでも都合が良すぎる)
 例え自分のいる学校を割り出せたのだとしても、昨日の今日で転入なんて出来るわけがない。
 だから、きっと似たようなタイプの人というだけだ。
 それに万が一そうだとしても相手は三年。そして自分は一年だ。
 部活に入っているわけでもないし、接点はほぼ無い。
(きっと、別の人)
 そう結論付けた朔だが、異様な胸騒ぎを抑えることは出来なかった。





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