「そろそろ限界か?」
 不敵な笑みを浮かべた里桃は拳を一端引くと、今度は月人の鳩尾めがけて力を込める。
 月人はその拳も止めようとしたが、間に合わなかった。
 ドスッ
「うっぐ、ぅ……」
 歪む顔とうめき声。
 そのまま何とか耐えようと踏ん張っていたが、結局耐えきれずに月人はその場に崩れ落ちる。
「――っ!」
 声にならない悲鳴が口を突いた。
 そして朔は、考えるよりも先に走り出す。
 気付いたときには里桃と月人の間に入り込んでいた。
 突然入り込んで来た存在に驚いた里桃は数歩後退りする。そしてそれが誰かを知ったとたん顔を歪めた。
「……何のつもりだ?」
 月人を庇うように両手を広げ相対する朔に、低い声が掛けられる。
 その声はその表情と同じく不機嫌だ。
 だが、対する朔は彼に気圧され怯んでいる。
 何のつもりだと聞かれても、答えは出てこなかった。
 ただ、月人がこれ以上傷つけられるのを見ていたくなかった。
 誰からも相手にされなかった自分に優しくしてくれた、数少ない大切な人の一人。
 そんな人の苦しむ姿は見たくはない。見るくらいなら、自分がその苦しみを代わってやりたかった。
 こんな風に立ち塞がっても、里桃から月人を守れるとは思わない。
 月人ですら太刀打ち出来ないと言うのに、自分がどうにか出来るわけがない。だが、ただ見ているだけというのはどうしても出来なかった。
 それだけの理由。だから、里桃の問いの回答にはならないと思った。
 でも、何かは言わなくてはと考えを巡らせていると、背後から息も絶え絶えな月人の声が聞こえた。
「ホント、何のつもり……? 下がってて、って……言ったよな?」
 その言葉に朔に迷いが生じた。
 月人の言うことを聞いて、木の陰でじっとしていれば良かっただろうか。
 だが、首を少し回し彼の顔を見てその迷いも消える。
 余裕など欠片も無い表情。苦しげで、意識を保つだけで精一杯という様子だ。
 朔は顔を正面に戻し、月人を見ないで彼に告げる。
「ごめんなさい……。じっとしてるのは無理」
 そうして、自分達を見下ろす里桃を睨み上げた。
 怒りを宿した瞳に見つめられ怯むが、視線だけは逸らさない。
 腹に力を込めて、この場は絶対に動かないという決意をする。
 そんな朔を見ていた里桃は、眉間のしわを増やした。
「……どけ」
 低い声が、静かに……だが、しっかりとした音で朔の耳に届く。
「どかない」
 朔も、里桃に負けない様にしっかりとした口調で言った。
「お前は見逃してやると言っただろう? どけ。今はお前をどうこうするつもりはない」
「絶対にどかない」
 殺気立つ里桃を前に、朔は徐々に声が震えていくのを感じた。
 怖い。この男の前に立っていたくない。逃げ出したい。
 そんな思いも徐々に強くなっていく。
 里桃の気が変わって、自分も今殺される可能性もある。
 もしくは、殺されはしなくても月人を殺すために邪魔にならないよう痛めつけられるかもしれない。
 最悪の考えはいくらでも浮かんできた。
 それでも、月人を見殺しにするよりはいい。
 怖くても、後悔だけはしたくないとその場に立ち続けた。
 しばらく、里桃とそのまま睨みあう。
 ピリピリと里桃の無言の圧力を感じ脂汗が滲む。全身、小刻みに震え始めた。
 それでも朔は動かなかった。
 何十分も経ったと思った。でも、実際には一、二分だっただろう。――里桃が動いたのは。
 視線をそのままに、彼は朔に近付いてきた。





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