何と切り出そうか。
今日から“家”となった屋敷に帰り、自室で華に着付けを手伝って貰いながら朔はそればかり考えていた。
里桃との戦いの後、少し休むと月人は普通に動けるようになっていた。
脂汗を掻いてかなり辛そうな顔をしていたのだから、そんなにすぐ動けるようになるわけないと言うと、『月鬼は傷の直りが早いんだ』と返されてしまった。
本当なのか疑ったが、平気な顔で宙返りまでされたら信じるしかない。
だが、そのすぐ後。
学校から出て少し歩いたところに玉兎が車で迎えに来てくれていた。その玉兎が月人を一目見て。
『どこか怪我でもしたのかい? 歩き方おかしいけど……』
と聞いていた。
その瞬間の月人のギクリとした表情を朔は見逃してはいない。玉兎に言い当てられた証拠。
朔には分からなかったが、朔より月人と付き合いの長い玉兎には分かったのだろう。
何にせよ、やはり月人はやせ我慢していたということだ。
朔に心配を掛けないために平気なふりをしていたのだろう。
それを知り、尚更今のままではいけないと思った。
そのためには昨日禁じたばかりだが、華に“質問”をしなくては……。
「はい、出来たっと!」
帯をお太鼓に結び終えた華は、軽くポンと帯を叩いて完成を告げた。
「あ、あの。華さん」
勇気を出して朔は呼びかける。
だが、本題を言う前に華が口を開いた。
「あ、そうだ。言おう言おうと思ってたんだけど、華さんってのはやめて? 同じ歳なんだし、華でいいわ。私も朔って呼ぶし。それと敬語も禁止」
「え? あ、うん。じゃあ、華……ちゃん?」
「だーめ! は・な!」
「わ、分かった。……華?」
「うん。それでいいわ、朔」
そう言って嬉しそうに微笑んだ華に一瞬見惚れてしまう。
そして呼び捨てで呼び合ったことが何故だか気恥ずかしかった。
月人のときはそうでもなかったというのに。
おそらく、自分が相手の名前を呼び捨てにしたからだろう。今まで呼び捨てで名前を呼んだ相手などいなかったから。
(それにしても華、私と同じ歳だったんだ……)
同じくらいの歳だろうとは思っていたが、高校には通ってはいない様子だったから上だと思っていた。
高校は義務教育ではないし必ずしも通う必要は無いが、今時珍しいなと朔は思う。
「それで? 何?」
「へ?」
いきなり聞き返され、朔は何の事だか初め分からなかった。
全く別のことを考えていた所為もあって、間抜けな声を出してしまう。
「へ? って……。何か聞きたいことでもあったんじゃないの?」
そう言われて、自分が何を聞こうとしていたのかを思い出した。
決意したというのに、一瞬でも忘れてしまうとは情けない。
「あ、その……。ちょっと、質問なのだけど……」
「ええ、何?」
「鬼は、何がしかの力を使えるのよね?」
「ええ」
「その……私、も?」
遠慮がちにそう聞いた朔に、華は二、三度瞬きし微笑んだ。