「月人から簡単にだけど報告を受けたわ。里桃が朔の通う高校に転入してきたんですってね」
 そう前置きをすると、華の目が真剣味を帯びる。そんな表情は彼女を少し大人っぽくも見せた。
「戦ったとも聞いたわ……。月人、怪我をしていたようだし……朔、月人に守られてばかりじゃいられないとでも思ったんでしょう?」
「……うん」
「貴女は優しいわね……。うん、いいわ。丁度良いし色々教えてあげる。ついてきて」
 そう言った華は襖を開け廊下へ出ていく。朔もそれに続いた。
「さっきの質問だけどね、結論を言うともちろん朔にも力は使えるわ」
 どこへ向かっているのか分からないが、華は歩きながら月鬼の力のことを教えてくれる。
「ただ、月人や兄様のような力とは違うわ」
「違う?」
 そのことに朔は軽く驚く。
 玉兎が力を使うところは見たことはないが、月人の力は二度見ている。
 明らかに人とは違う身体能力。
 昨日自分を襲った火鬼達も異常な身体能力を持っていたから、鬼とはそういった人間離れした力を持っている者のことだと思っていた。
「ええ……というより、男鬼と女鬼では力の質が違う。というところかしら」
 顎に人差し指を当て少し考えながら華は言う。
「何て言うか……そう。攻めと守り!」
「攻めと守り?」
「そう。男鬼が攻めで、女鬼が守り。だから男鬼である月人や兄様は攻撃的な力を使うわ。人間を上回る身体能力もその一つよ」
「そうだったんだ……」
「ええ。あとは術かしら。月人は月鬼の血が薄いから身体能力だけだけれど、兄様は風を操るわ」
「風?」
 何も分からない朔は先程から華の言葉をオウムのように繰り返すばかりだ。
 もう少し気の効いた聞き返し方は無いのかとも思ったが、鬼という存在についてほとんど何も分かっていないのだから仕方ないことだった。
「どう説明すればいいかしら……。別に何か呪文を言うとか方陣を描くとか、そういう魔術的なものではないの。兄様の場合、風を読むことが出来るんですって。風が起こる場所を知り、その強弱、種類を知ることが出来る」
 そこまで言うと、急に自信に満ちていた華の表情が曖昧なものに変わった。
「ここからは聞いていて私も良く分からなかったのだけれど……。風を知ることが出来れば、その風を攻撃として使えるものに出来るとか何とか……」
「は、あ……」
 もうオウム返しすら出来なくなる。
 理解の範疇を越えている上に、ただでさえ説明が足りない。
 まあ、説明してくれている華ですら良く分からないと言っているのだから仕方ないこと。
 おそらく、実際に風を操るという玉兎にしか分からないことなのだろう。
「まあ、普通の何でもない風をつむじ風とかに出来るとでも思ってくれればいいわ」
 困っているようなものではあったけれど、華はそう言ってやっと笑顔に戻った。
 その説明は到底理解出来るものではなかったが、とりあえずは分かった。
 言葉の通り、普通の風をつむじ風に変えることが出来るのだろう。
 朔は半ば無理やり納得した。
「……分かった」
 それに、今自分が一番聞きたいことは男鬼の力ではなく、女鬼――自分が使えるという力の方だ。この話をいつまでも続ける意味は無い。
「そう、良かった。……それで女鬼の力だけれど、さっきも言ったように守りの力なの。もっと分かり易く言うと、結界というところかしら」
「結界……」
 聞き返すと言うより、理解しようとゆっくり繰り返した。
「ただ、一口に結界と言っても種類があるの。この家にも結界は張ってあるけど、それは私達を狙うもの達への目くらましのようなものだし、誰かを確実に近付けないためのものではないわ」
「ここにも結界が? ……ちっとも分からなかった……」
 初めて知る事実に、少し驚き、そして落胆した。
 結界というものがどうやって出来るのかは分からないが、あるのも分からないのに出来るようになるのだろうかと不安になる。
 だが、目に見えて落ち込む朔に華は笑顔で不安を消してくれた。
「気にしないで。私もそんなにはっきりと分かるわけでもないし、それに貴女は結界がどういうものなのかも知らないんだもの。きっと、知れば分かるようになるわ」
 確実に分かるようになるなんて保証はない。だが、華が自分を励まそうとしているのは事実だったから朔は笑顔で「ありがとう」とだけ返す。
「それで結界のことだけど、他には二つ種類があるわ。一つはその場にいる人以外の人達を近付けない様にする結界。これは近付こうとする人間をそっちに行きたくない、と思わせることが出来るの。それも無意識にそう思って別の道を通ったりするから、当人達に違和感とかは残らないわ」
 朔は華の言葉を一言一句聞き洩らさない様に耳に神経を集中する。
 正直に言ってしまうと、どういうことなのかちゃんとは理解出来なかった。でも、少しでも知ろうとじっと華を見つめた。
「そしてもう一つの結界だけれど……。これは、見えない壁よ」
「見えない壁?」
 聞き返しながらも、朔は何となく理解していた。
 きっと、そのままの意味なのだと思う。
「そう、見えない壁。何も見えないのに、まるでそこに壁でもあるかのように近付けないの」
 予想通りの答えに、朔は「ああ」と頷いた。
 すると、華が立ち止まる。
 彼女にならって朔も足を止めると、そこに戸があることに気付く。
「あとは実際に見せた方が早いわよね。入って」
 と、華はその横開きの戸を開き朔を中へと促した。
「――っ!?」
 朔は戸の向こうにあった部屋に息を飲む。





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