「え……?」
 突然の男の行動に、朔はただ驚きを見せることしか出来ない。
「すぐにはバレねぇよ。その前に既成事実作っちまえばいいだろ」
 言い終わると同時に、胸倉を掴んでいる男の手に力が込められた。
 そして次の瞬間、ビリリと制服が裂ける。
「っ!」
 真っ先に覚えたのは羞恥。
 引き裂かれたのは部分的だったが、もう少しで下着が見えてしまうというところまで肌が露出してしまっている。
 朔は混乱した。何が何だか分からない。
 男達の目的も、なぜ自分がこんな目に遭わなくてはいけないのかも。
 ただ、状況から彼らが何をしようとしているのかはなんとなく理解した。
「おい、少し待てって」
 背後の男がそう言い、朔の制服を掴んでいた男の腕を掴む。その拍子に男の手が外れた。
 朔はその機会を逃さず、男達の間から抜け出る。
『なっ!?』
 二人の男の声が重なる。
 だが、朔は気にも留めずにそのまま走り出した。
 待っていたって、誰も助けてはくれない。
 いつだってそうだ。
 それなら自分で何とかするしかない。
 だが、朔には男二人を相手に抵抗出来る力などありはしない。出来るのは逃げることだけ。
 ならば全力で逃げるのみ。
 朔は逃げるために邪魔なカバンを何の躊躇いも無く手放し、走り出した。
「このっ、待て!」
 男達が追ってくる。
 背後から聞こえる足音がすぐに近づいてくるのが分かった。
 当然だ。
 男の足と女の足。しかもスポーツもしていない朔では、尚更距離を広げることは無理だった。
 初めは警察に駆け込もうかと思っていた朔だったが、このままではその前に捕まってしまうと悟る。
 すると丁度その時、住宅街を出た。
 左手にはいつもの通学路。警察に駆け込むならこちらだ。
 右手には山に続く林。山には人の住んでいない屋敷が一軒あるだけで、他には何もない。
 通常であれば左に向かうだろう。
 だが左に行けば交番に着く前に男達に捕まってしまう。
 右に行けば運が良ければ男達をけるかもしれない。
 迷ったのは一瞬だった。
 逡巡しゅんじゅんののち、選んだのは右手。
 朔は何より今捕まらない方を選んだ。





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