そうして今にいたる。
 念のため整備された道ではなく獣道に入った。
 そのおかげで木々が彼らの邪魔をし、男達を引き離すことに成功する。
 ただ、けたのかどうかは分からない。
 姿が見えなくなっただけで、まだ近くにいるのかも知れない。
 足を止めたら、その隙を狙って襲いかかってくるかも知れない。
 追われる恐怖が見えない恐怖に変わる。
 こちらを選んだのは間違いだったのかもしれない。
 今更ながら朔は思う。
 確かにすぐに捕まることはなくなった。これで今から警察に向かえば何とかなるかもしれない。
 だが、来た道をそのまま戻ると男達がいる可能性が限りなく高い。
 仕方なく少しずつ左に逸れたが、そうすると今度は方向が分からなくなった。
 立ち止まってちゃんと周りを見ればどのあたりなのか分かったかもしれないが、男達がどこにいるのか分からない状況で止まる気にはなれない。
 だから道が分からなくても進み続ける。
 そう、朔は完全に迷っていた。
 制服は破かれた部分が目立たなくなるほどボロボロ。
 色素の薄い長い髪にはきっと小枝や葉が絡まっているだろう。
 白い肌には引っかき傷が赤く目立つ。
 まさに満身創痍まんしんそうい
 しかも目が覚めたときから感じていただるさが増してきた。
 苦しい、重い。特にお腹の辺りが。
「やっぱり、こっちに、来なければ良かった……」
 息切れしながらもそう口にする。
 言ったところで既に遅いが、言わずにはいられなかった。
 いや、言わなければならなかった。
 そうでもしないと気を失いそうだったから。
 意識が朦朧もうろうとする。
 自分は一体どうしてしまったんだろうか。
 確かに珍しく全速力で走ったりした。男達に追われている恐怖で精神的に少し参っている。
 でも、それだけでここまで異変が起こるほど自分の体は弱かっただろうか?
 そこまで考えて思考は止まる。もう、何かを考えるのも億劫おっくうになってきた。
 歩調が弱まる。
 疲れ果て、引きずるように歩いていた足はもう動かせなくなった。
 そして彼等は、それを待っていた。





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