先程までのしっかりとして少し大人びた雰囲気の華とは打って変わって、年相応の明るさを見せる彼女に朔は数回目を瞬かせた。
 そして苦笑し、自分も年相応に華に答える。
「そうね……。そうだ、この家の人にまだちゃんと挨拶してなかったわよね」
 そう、この家に住むようになって二週間経つが朔は未だに華と玉兎、そして月人の三人にしか会ったことが無い。
 月鬼の長でありこの家の家主でもある華達の父親はもちろん、他にもいそうな住人達と顔を合わせたことも無いのだ。
 華達がいずれ紹介してくれるだろうと思って今まで何も言わなかったが、丁度いい機会だ。この時間を利用して家にお世話になっている挨拶をしようと思った。
 だが、朔がそう提案した途端華の表情がサッと変わる。
 何かまずいことを言ったのだろう。だが、どこがまずかったのか分からない。
 とりあえず提案を少し変えることにする。
「全員が無理なら華のお父さんだけにでも――」
 だが、それを最後まで言うことは出来なかった。
 華の頬が益々強張り、眉が寄せられる。しかも少し青ざめているようにも見えた。
 自分はお世話になっている家の人に挨拶したいと言っただけだ。それは、ごく自然なことのはず。
 そして家主である華の父親だけにでも挨拶したいというのは当然のことではないだろうか。
 朔は、華のその表情の理由がさっぱり分からなかった。
「ご、ごめんなさい。それは、ちょっと……」
 困惑し不安がる朔に、華は焦ったように提案を断る。
 どうして? と、聞ける様子ではなかった。
 でも顔に出ていたのだろう。華は少し笑顔を取り戻し、「ごめんなさいね」と今度は気軽な口調で謝ってきた。
「父様は……何というか。その、少し気が触れているの」
「え……?」
 思ってもみなかった言葉に、朔はただ目を見開く。
「話すと少し長くなるけど……。そうね、丁度良いわ。今はその話をしましょうか」
 静かに微笑む華に、朔は「うん……」としか答えられなかった。
 驚きがまだ続いていたこともあるが、華のその頬笑みが『聞いて欲しい』と言っている様な気がしたから……。
「どこから話そうかしら。……そうね、二十年前から……」
 そう呟いたあと、華は朔の目をまっすぐに見た。
「朔、今から二十年前にも“桃太郎”が私達月鬼の一族を討伐しに来た話は前にしたわよね?」
「ええ」
 詳しくは聞いていないが、初めに色々説明して貰ったときに言っていた気がする。
 “桃太郎”は今も尚月鬼を滅ぼそうとしている。生き延びた月鬼の集落を見つけては退治しにくるのだと。
 前回がいつだったのかは知らなかったが、二十年前だったのか……。
「その頃、“桃太郎”が攻めてくる前に一人の女鬼が見つかったの。胡桃色の髪に茶の瞳。とても貴重な、力の強い女鬼が」
(私や華と、同じ色の鬼……)
 朔は目の前に同じ色の目と髪をした華がいるのであまり実感は湧かなかったが、女鬼は本当に貴重な存在らしい。
 月鬼は幾度もの“桃太郎”による討伐で日本各地に散り散りになっている。
 そのため正確な数は分からないが、確認出来ているだけで百人強。その中で女鬼は自分達を含め十三人のみ。
 そして力の強い血を持つ証である胡桃色の髪と茶の瞳を持つ女鬼は朔と華二人だけなのだと言う。
 二十年前には、その色を持つ女鬼は“桃太郎”が攻めてくる前に見つかったという少女一人だけだったのだと華は言った。
「彼女は二十年前の“桃太郎”の討伐より前の討伐で散り散りになってしまった月鬼の夫婦の娘なのだけど、彼女の両親はあまり力の強い鬼ではなかったから居場所が分からなかったの」
 だが、少女が十五の年。大人になった彼女の気配は鬼達全てが知ることの出来る程のものだった。
 それほど強烈な気配、長である華の父親が見逃すはずが無い。
 少女は、本人の意思も関係なく長の下へ連れてこられた。





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