「何者だ」
 男は警戒し、唸るように言う。
 この男は玉兎の父親ではなかったのだろうか? 玉兎に『何者だ』などと言ってのけるとは……。
(私の勘違いだったの?)
 そう思った朔だが、次の玉兎の言葉で正しかったことを知る。
「何者だは無いでしょう、父上。貴方の息子の玉兎ですよ?」
 玉兎は、あくまで優しくそう言った。
「息子? 玉兎はまだ小さいはず――」
「父上」
 男の記憶はずいぶんと前に時を止めてしまったのか、おかしなことを口にする。
 だが、それを遮って父と呼んだ玉兎に、男は動揺の色を見せた。
「え……? あ、いや……玉、兎……?」
 不安げに息子の名を呼んだ彼は、まるで糸が切れた様に朔を離す。
 そのときにはもう、男は朔を見ていなかった。
 そんな彼に玉兎が近付き優しく微笑む。
「さあ父上。そんな格好でうろついては風邪を引いてしまいます。秋も終わりで、ずいぶん寒くなってきましたから」
「あ、ああ……。そうだな、玉兎」
「月人に部屋まで送らせます。ちゃんと布団に入って寝て下さいね」
 にっこりと頬笑んだ玉兎の顔は、反論を許さない雰囲気を持っていた。
 その様子に気圧されたのかは分からないが、男は玉兎の言うとおり最後まで何も言わなかった月人に連れられてその場を去って行った。
 姿が見えなくなって、やっと朔は助かったと思えた。
 すると同時に、体がカタカタと小さく震える。
「あ……」
 抑えようと自分の体を抱き締めるが、震えはなかなか止まらない。
 自分で思っていたより、怖かったのだ。
「朔さん……」
 玉兎が名を呼び、その肩に手を乗せようとする。だが、朔はビクリと拒絶の反応をしてしまった。
 すぐにそのことに気付いた朔はとっさに謝った。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「良いんだよ。ついさっきあんなことがあったのに、不注意に触れようとした僕が悪いんだ。すまなかったね」
 怒るどころか、優しい笑みを向けて謝罪して来る。
 その優しさが、逆に申し訳なかった。
「……台所に行こうか。ホットミルクでも飲めば少しは落ち着くかもしれない」
「……はい」
 玉兎の提案に朔は特に迷うこともなく頷く。
 元々そのつもりだったし、あんなことがあった後では余計眠れそうになかった。
 台所に着くと、玉兎は「夜は冷えるからね」と自分が着ていた羽織を朔の肩に掛けてくれる。
 そしてそのまま朔を座らせ、慣れた手つきで冷蔵庫から出した牛乳を温め始めた。
 朔は玉兎の温もりが残る羽織を引き寄せながら、その背中を見ていた。
(温かい……)
 羽織に残る温もりが。
 自分のためにホットミルクを作ってくれているその背中が。
 ついさっき拒絶してしまったというのに、いつもと変わらず優しい。
 そんな優しい温もりに、朔は何度目とも知れぬ切なさを感じた。
 嬉しさと申し訳なさでいっぱいになる。
 涙が零れてしまいそうなその感情を朔は何とか抑えた。
 今泣いてしまったらもっと玉兎に心配を掛けてしまうから。
「さ、どうぞ。熱いから気をつけて」
 いつの間にか俯いてしまっていた朔の前に、湯気を立てたカップが差し出される。
「……有難う御座います」
 礼を言ってカップを受け取り、少し啜った。
 コクンと飲み下すと、体の中からじわじわと温かくなってくる。何度かそれを繰り返し、カップの中のミルクが半分くらいになったところでふぅ、と息を吐いた。
 心も体も落ち着けた。
 さっき泣きそうになっていた感情も落ち着き、朔は安らいだ表情を見せる。
 そうなってから、玉兎がゆっくり口を開いた。





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