どれくらい経ったのか。
 意識が浮上して、少し周りの音が聞こえるようになった。
 カタ、と横開きのドアが閉まる音が聞こえる。
 足音が近付いてきて、朔の寝ているベッドの横で止まった。
(先生、戻ってきたのかな?)
 もうそろそろお昼なのかもしれない。
 だから先生が起こしに来たのかと思い、朔はゆっくり目蓋を開く。
(あ、れ?)
 寝起きではっきり見えない目でもそれが先生ではないと分かる。
 ふくよかな先生とは明らかに違う体格。
 細身だがしっかりとした骨格。それは、どう見ても男のものだった。
 瞬きをし、はっきりとした視界でもう一度見る。
 こげ茶色の長めの髪。どこかで見たような冷たい黒い目。整った容貌。
 この冷徹なほどの美しさは、朔に既視感を覚えさせた。
 だが、目の前に居る十七、八歳の男に見覚えは無い。
 それに男はこの学校の制服ではなく学ランを着ていた。部外者だ。
 何故部外者が学校内に居るのか。そして何故朔の側に来たのか。
 謎ばかりだったが、取りあえず何者なのかという意味を込めて『誰?』と聞こうとした。
 だがその前に男の厚めの唇が動く。
「お前が、朔か?」
「え?」
 名を確認され、朔はますます困惑する。
 この男は自分のことを知っているのだろうか。
 もちろん確認してくるのだから面識はないだろうが、朔の特徴は知っているのだろう。でなければそう聞くことすらないはずだ。
(何者?)
 朔は眉を寄せ、益々男に不信感を持つ。
 すると男は不機嫌に眉を寄せ、突然朔が被っていた布団を剥ぎ取った。
「っなっ!?」
 空気が入ってきて寒くなる。
 寝心地が悪いからだろう。ブレザーを脱がされていたので尚更寒く感じた。
 でも、すぐにそれすらどうでもよくなる。
 何をするのかと抗議の声を上げようとした朔の胸倉を男が乱暴に掴んだ。そして顔を近付け凄んでくる。
「聞こえなかったのか? お前が朔かって聞いたんだよ」
 低い、脅すような声。
 実際彼はそのつもりだったのだろう。胸倉を掴んだ手は容赦なく朔の首を絞めつけてきた。
 息苦しい状況の中、朔は間近で見た男の目にそれが誰と似ているのか気付く。
 以前、同じ目で自分を見た男がいた。
 その男は朔が鬼だと知るとその冷徹な目を燃える様な色に変えた。
 ……そう、目の前の男の冷徹な目は里桃に似ていたのだ。
(まさ、か……)
 似通った眼差しが男と里桃を似た存在だと認識させる。
 そういえば里桃も初めは学ランを着ていた。その認識はあながち間違っていないのかも知れない。
「……名前、聞くなら……自分から名乗るのが、礼儀じゃない……?」
 男が本当に“桃太郎”側の人間なのか確かめるために、息苦しい状況でも何とか言葉を絞り出す。
 何度か怖い目に遭って少しは恐怖に慣れたらしい。男は恐ろしかったが、朔はかろうじて強気でいられた。
 男は朔の強気な態度が予想外だったのだろう。軽く目を見開き、そして笑う。
「ふん、強気だな」
 冷徹な目に僅かな興味の色が宿る。そんな様子も里桃に似ているように思えた。
 姿形は全く違う。顔は似たパーツがあるかもしれないが、どこがどう違うとはっきり言える程のものではない。
 だというのに、目の色だけが似ている。
 この男は里桃とどういう関係なのだろうか。
 最早名など聞かなくても、目の前の男が里桃の関係者だと本能で気付いていた。
 だがそれでも、男の名乗りには驚いた。……いや、困惑したの間違いか。
「良いぜ、教えてやるよ。俺の名は吉備 涼」
 そして続けられた言葉を、朔は理解出来なかった。
「次代“桃太郎”の父親となる男だ」





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