せっかく結界が成功したというのに、考えが足りなかった所為でまた捕まってしまった。
 同じチャンスは二度と作れないだろう。朔は悔しさを我慢しきれずに表情に出した。涼から視線を逸らし、唇を噛む。
 そんな朔の様子が気に入ったのか、涼は満足げに笑い話し出した。
「結界か……。やっぱりお前、女鬼の“朔”じゃねぇか」
「え?」
(結界だと気付いた?)
 結界は目に見えるものではない。人間には何が起こったのか分からないはずだ。
 それとも、“桃太郎”の一族はそういうことも知っているのだろうか。……何度も戦ってきたというのだからそれもあり得るのかもしれない。
 だとしても、あんな僅かの……結界と言えるかどうかすら分からない程のもので言い当てるとは……。
 月鬼の中でも結界を感知出来るのは女鬼だけのはずなのに、この男はどうして分かったのか疑問だった。
「何て顔してんだよ。聞いた通り、お前本当に何も知らねぇんだな」
 そう言った涼の空いている方の手が朔の首もとに近付いて来た。首を絞められると思った朔は息を飲み、身を強ばらせる。
 だが、涼の節ばった指が朔の首筋に絡みつくことはなかった。
「まあいいさ。俺が教えてやるよ……色々とな……」
 意味深げな言葉を最後に付け加え、涼の指が朔の赤いネクタイに触れる。外そうとしているようだが、片手では上手くいくはずがない。でもそれは重々承知なのか彼に焦りの表情は見られなかった。あくまで余裕の、不敵な笑み。
 身動きが取れない状況だとしても大人しくしているつもりはさらさらない朔は逃げ出そうと身じろぐ。だが圧し掛かられているせいで両手だけでなく両足の自由も効かないため、ろくな抵抗すら出来ないでいた。
 朔の抵抗を意にも介していない涼の唇が、その指先と同じくらいゆっくり動き始める。
「お前、“桃太郎”――初代桃太郎の正体を知ってるか?」
「何?」
 聞いている意味が分からなかった。
 “桃太郎”とはその昔月から地上へ降りてきた月鬼を退治した存在。そして今も尚、生き残りを見つけては退治しようとしている存在。朔にとって敵である存在だ。
 それしか知らない。『初代』などと言われたら尚更分かるわけがなかった。
 朔の反応に「やっぱり知らねぇんだな」と軽く嘲笑した涼は、もったいつけるように言葉を続けた。
「良く考えてみろ、どうしてただの人間だった奴が身体能力が格段に違う、そして不思議な力を使う鬼を退治出来たと思う?」
「っ!」
 涼の言葉に、朔は目を見開いて息を詰める。一瞬抵抗することすら忘れてしまう。
 それは考えてもいなかったことだった。考えなくても出てくる疑問だったはずだが、幼い頃から植えつけられている“桃太郎”のイメージがその疑問を浮かび上がらせることすらさせてくれなかった。
 “桃太郎”は悪事を犯す鬼が住まう鬼ヶ島へ赴き鬼を退治する。誰もが知っている昔話。誰もが知っている程有名な昔話だからこそ、朔は今までその疑問に気付かなかった。
 だが、鬼が実在していることを知り、彼等がどういう存在なのかを知った。知ったのだから当然出てくるはずの疑問だったというのに……。
(でも、その疑問の答えは……)
 その答えは、一つしか思いつかなかった。
 鬼は人間よりも身体能力が高い。それに当時は玉兎のように不思議な力を扱う月鬼も沢山いただろう。
 そんな存在にただの人間が敵うわけがない。――ということは……。
「答えは、初代桃太郎はただの人間じゃなかったってことだ」
 シュル……と音を立て、ついにネクタイを外した涼は朔が出した答えを口にする。
 そして、朔には出せなかった答えの続きも言葉にした。
「初代桃太郎はな、人間と月鬼の女との間に産まれた半人半鬼だったんだよ」





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