「……」
「……」
 何とも言えない沈黙が落ちる。
 この状況で、自分は一体どうすればいいのだろうか。
 すぐ側で黙って立っている里桃に警戒しながら、朔は途方に暮れた気分で天井を見ていた。
 少なくとも今の里桃からは殺意を感じない。
 先程も『いずれ殺す』と言っていたのだから、今殺されることは無いだろう。
 その部分に一安心し、やはり月人を呼ばないでおいて良かったと思った。
 里桃は未だに月人にも手を出していないのだから、今この場に月人が居ても殺されることは無いかもしれない。だが、万が一ということもある。
 ただでさえ月人は里桃を挑発するような発言をする。例え里桃に月人を殺す意思がなくとも、月人自身が里桃にその意思を持たせかねない。
(……うん。やっぱり呼ばなくて良かった)
 脳内で最悪の状況を思い描いた朔は改めてそう思った。
 そして今の状況がそこまで悪いものではないのかも知れないと思い始める。
 里桃と二人きりという状況だが、彼には自分を殺す意思は無い。それに、涼のように襲ってくることも無いようだ。
 問題が有るとすれば、未だに拘束されたままの手首だけ。
 自分で解けない以上誰かに解いてもらうしかないのだが……。
 チラリと、朔は天井から里桃へと視線を移動させる。
 彼は涼が消えた出入り口の方を見たまま黙って突っ立っていた。そのまま動く様子は無い。
 手首の拘束を解いてもらうとしたら今ここに居る里桃に頼むしかないのだろうか?
 このままでいるといずれ戻ってきた保健室の先生に何があったのか追及されるだろう。それを避けるためにはその方法しか無いが……。
 自分が里桃に頼みごとをするというのは、何か……何か違う気がした。
 そんな風に里桃に頼むかどうかを悩みながら彼を見続けていると、その視線に気付いたのか里桃がこちらを向く。
 思いがけず視線が合い、朔は驚きから息を飲んだ。
 だが、それは里桃の方も同じだったらしく彼の息を飲む音も聞こえた。
 そして里桃はすぐに視線を周囲に巡らし、近くに畳んで置いてあった朔のブレザーに目を留める。それを掴み上げるとバサリと朔の身体に掛けた。
「……全く、何て格好だ……」
 独り言に近い呟きを洩らし、里桃はそのまま朔の手首の拘束を解きにかかる。
 朔は言わずとも拘束を解こうとしてくれる里桃にホッとしながら彼の呟きを反芻していた。
(『何て格好』……? 私の、格好……っ!)
 言葉の意味を理解した途端、朔は息を止め目を見開く。続けて恥ずかしさで顔を真っ赤にさせた。
 今はブレザーで隠されているが、その下のブラウスはいくつかボタンが外されている。
 はだけた胸元が惜しげもなく晒されていたのだ。もしかすると、胸の膨らみも少し見えていたかもしれない。
 それ以上も見るつもりで襲ってきた涼はともかく、そのつもりのない里桃にまで見られたことはかなりショックだった。
 朔はさっきとはまた違った意味で泣きたくなる。
 でも、目じりに涙が溜まる前にネクタイを解いた里桃が静かに口を開いた。
「お前、涼にされるがままだったみたいだが……。力はまだ使えないのか?」
 自由になった両手に軽く音を立てネクタイが落ちてくる。
 朔はそれを掴みながら腕を胸元に持って来て、肌が見えない様にブラウスを掴み上半身を起こす。
 掛けられていたブレザーを肩に掛けるように羽織りながら、里桃の問いに何と答えようか迷っていた。
 まだ思うようには使えないが、つい先ほど一瞬とはいえ成功したのだから使えないというわけではない。
 とはいえ使えると豪語出来る程のものでもない。
 それに第一、敵である里桃に正直に話すべきことなのだろうか。
 色々考えていると、前触れもなく保健室のドアからコンコンとノックする音が聞こえてきた。
 先生だろうかと思ってすぐに違うと否定する。先生ならばわざわざノックなどしない。
 では生徒だろうか?
 そう考えると同時にドアが開き、背の小さい男子生徒が入ってきた。
「失礼しまーす。……先生?」
 今一番来て欲しくない人物・月人はそう呼びかけて室内を見渡し……そしてこちらに気付く。
「――っ! お前!」
 驚き、叫ぶと同時に彼は朔と里桃の間に入ってきた。





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