「そう……里桃がそう言ったのね?」
 家に帰ると、朔たちはすぐに玉兎と華に事の次第を話した。
 二人は特に動じることも無く黙って話を聞き、話が終わると華が静かにそう問う。
「う、うん……」
 朔は彼女の落ち着いた様子に戸惑いながら答える。
 決戦が近い深刻な状況。だと言うのに二人からは焦る様子など微塵も感じない。
 玉兎に至ってはいつも以上に穏やかな表情をしているようにすら見える。
 二人の態度をどう受け取っていいものか迷い、隣に座る月人の顔を窺い見た。
 だが彼は無表情で何を考えているのか分からない。その面持ちはどこか緊張しているようにも見えた。
 いつも表情豊かな彼がこんな表情をすることは珍しい。
 軽く思い返してみると、彼は玉兎がいるときにいつも緊張しているような気がする。
 直接守るべき相手だった華にはそうでもないと言うのに……。
 僅かに疑問に思ったが、考えてもはっきりとした答えは出てくるわけがない。
 朔は諦めて目の前の二人に視線を戻した。
 すると変わらず落ち着いた様子の華が「大丈夫」と話し出した。
「心配しないで? 私達だって今まで何の準備もしていなかったわけではないわ」
 その言葉に朔は二、三度瞬く。
 里桃が……“桃太郎”がこの地に来たことを彼女達が知ったのは約二週間前。
 確かに、華達がいずれ来るであろう決戦のことを考えていないはずが無い。
 そこまで思い至ってやっと二人が落ち着いている理由が分かった。
 いずれ決戦の時が来るのはとうに予測していたのだから今更驚く理由は無い。それに、そのために対処をしていたのなら焦る必要も無いのだろう。
「“桃太郎”である里桃がこの地に私達月鬼の討伐に赴いたことを知ってから、すぐに各地の仲間に連絡を取ったわ。そして、“桃太郎”と戦えるくらいの力を持つ月鬼を呼び寄せたの」
「まだ到着していないけれど、明日には来ると今日連絡が来たばかりなんだよ」
 華の言葉を引き継ぐように今度は玉兎が話し出した。
「里桃がいつ討伐に来るか分からなかったからハラハラしていたけれど、今の報告を聞いてほっとしたよ。『近々』なんて曖昧な言い方をするってことは明日すぐに来れるという状況でもないんだろう。何とか、こちらの戦力が揃うのが間に合いそうだ」
 朔を安心させるためか、穏やかに微笑みながら説明する玉兎。だが、朔はそれでも安心は出来なかった。
「でも……」
 胸中の不安を口に出そうか迷い、言葉を止める。でも目の前の二人は自分の言葉をじっと待っていてくれたため、意を決して再び口を開いた。
「その……“桃太郎”側が何人で来るのかも分からないし……こっちの戦力はそれで大丈夫なんですか?」
 華の話し方だと、明日来る“力を持つ月鬼”というのはそれほど多い様には思えない。
 “桃太郎”と戦えるくらいと言うくらいなのだから玉兎の様に何らかの能力を持っているのだろう。それでも、里桃や涼の様な者達が沢山来られたらただで済むわけが無い。
 皆に無事でいて貰いたい朔としては、やはり不安なのだ。
 だがそんな朔の不安は華の明るい声で打ち消される。
「あ、それなら大丈夫よ。あちらが何人で来るかは分かっているから」
「へ?」
 予想もしていなかった返答につい間抜けな声を洩らしてしまう。
「“桃太郎”はね、いつも四人でしか来ないの。昔話と同じように“桃太郎”と“犬”“猿”“雉”の四人だけで」
「どうして……?」
「さあ? 理由は良く分からないわ、敵方の事情だし。でもかなり昔からそのスタイルは変わっていないから」
 首を傾げ、続けて笑顔で自身満々に言い切る。
 朔はどこか釈然としない気持ちが残ったが、笑顔で言い切った華にそれ以上不安を口にする気にはなれなかった。





本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース