「もっと厳重に守られてるのかと思ったけど、まさかこんなに手薄だったとはなぁ」
「っ――!」
 耳元で囁くように言われ、耳に息が掛かる。
 生温かい吐息に身を強張らせると、楽しげな笑いが耳に届いた。
「あ、貴方何者!? 朔を離しなさい!」
 突然の不審者の登場に驚いて、すぐに対応出来なかった華がやっと叫ぶ。
 華には涼に襲われたことを話していないから彼が何者なのかは分からないはずだ。だが、この状況で味方だとは流石に思っていないのだろう。華は警戒に満ちた目で涼を睨んでいた。
 そんな華に、涼は軽く鼻を鳴らす。
「ふん、もう一人女鬼がいたか……」
 朔からは彼の表情は見えなかったが、その声音から笑っているだろうことは想像出来た。
 背後から感じる様子に朔は不穏なものを感じる。
 目の前にいる華は胡桃色の髪に茶の瞳を持つ力の強い女鬼。
 そして背後にいる涼はそういう力の強い女鬼に自分の子を産ませようとしている。
(まさか、華も襲うつもりなんじゃ……)
 その考えに至るのは容易たやすかった。
 有り得ないことではない。いや、寧ろ涼にとってはあって当然のような考えだ。
(でも、そんなのは絶対駄目)
 華は父親に襲われかけるなど辛い思いをしている。そんな彼女にこの手のことでもう辛い思いは絶対にして欲しくなかった。
 華はいずれ好きでもない男の子供を産むのだということはなんとなく朔にも分かっている。長の娘という立場。今まで彼女が話してくれたこの家のしきたりなどでそれは避けられないことなのだろうと……。
 でも、それでも朔は彼女に幸せになって欲しいのだ。辛い思いは出来得る限り少なく。
 だからこそ、敵である涼に好きなようにはされたくない。
 状況的には朔の方が危険なのだが、華を危険に晒したくないという思いの方が強く逃げて欲しいと願う。
 口を塞がれているからただ願うしかない。
 声が出ていたところで華が願いを聞き入れてくれることは無いのだと分かってはいたが、それでも願い、目で訴えた。
 だが華は逃げてなどくれない。寧ろ朔を助けようと今にも涼に掴み掛からんばかりの様子だ。
 そんな華に朔は焦り、涼の腕の中から逃げ出そうともがく。
 自分が掴まっているから華は逃げてくれないのだ。何とか、涼から逃げられないものか。
 そう思ってとった行動だったが、涼の腕の力は緩むことは無く寧ろ逃がさないとばかりに強まった。
「おっと、暴れんなよ朔」
 軽々と朔を抑え込んだ涼は楽しげだった。
 そんな彼に腹立ちを覚えたが、次の予想外の言葉にそれも一瞬忘れる。
「浮気なんかするつもりねぇから安心しろって」
 言葉そのものは見当違いもいいところなのだが、その意味は朔にとって良いことではあった。
 浮気するつもりは無いということは華を襲うつもりは無いということだ。
 涼にその気は無いと分かりホッとする朔だったが、次の涼の行動に肌を粟立てることになる。
「“二兎追う者は一兎をも得ず”って言うしな。俺はお前だけで十分だ」
 そう口にした涼はその唇を朔の首筋に当てた。
「っ――!?」
 生温かい柔らかなのもが首に当たり、それが何なのか理解した途端声にならない悲鳴が朔の口から出る。
「ちょっ! 貴方朔に何て事を!」
 一部始終を見ていた華が再度叫ぶ。
 だが当の涼は気にすることも無く唇を離すと、睨んでくる華に一言だけ告げた。
「じゃ、朔は貰っていくぜ」
 そして涼は朔を抱えたままその場から逃げる。
「なっ!? 待ちなさい!」
 すぐに見えなくなった華の声だけが朔の耳に届いた。





本・漫画・DVD・アニメ・家電・ゲーム | さまざまな報酬パターン | 共有エディタOverleaf
業界NO1のライブチャット | ライブチャット「BBchatTV」  無料お試し期間中で今だけお得に!
35000人以上の女性とライブチャット[BBchatTV] | 最新ニュース | Web検索 | ドメイン | 無料HPスペース