自分の中に感じていた力。それはいつも靄の様なものが包み込んでいた。
だが、今はそれが全くない。
靄は晴れ、力がとても身近に感じる。
手足を動かすのと同じように、どうすればその力を使い結界を張れるのか考えなくても分かった。
無意識の内に張った結界で里桃の刀が離れた場所に飛んでいく。
予想していなかった出来事に朔自身驚いたが、目の前の里桃の表情はそれを遥かに上回っていた。
驚きというよりも驚愕。今、何が起こっているのか本気で分からないといった顔だ。
その唇が小さく動く。
「お前……何なんだ……?」
質問の意味が分からず小首を傾げると、その拍子に視界の端で白いものが見えた。
一瞬雪かと思ったが、それは朔の頭の動きに合わせて揺れている。
月明かりに照らされているそれは僅かに光り、白ではなく銀なのだと知った。
そして、手に取ってみて初めてそれが自分の髪の毛だと知る。
「……え……?」
(私の髪……?)
知ってもすぐに信じることは出来ない。
自分の髪は胡桃色だ。染めた覚えも無いし、何よりついさっきまではいつも通り胡桃色だった。この一瞬で髪の色が変わるわけがない。
だが、掴んだことによって頭皮に伝わる感覚は、確かにその銀髪が自分のものだということを物語っている。
自分の髪が銀色に変わったことを理解した途端、朔自身も自分に何が起こっているのか分からなくなった。
頭の整理が出来なくなって額に手を当てると、またもや異変に気付く。
額と生え際の間辺り。その境目に二か所突起が出来ていた。
それは朔の額から生えるように出ていて、くっつけたものではない。
その二つの突起は“角”というのに相応しいものだった。
銀の髪に二本の角。そこから連想されたのはいつも結界を張る練習をしていた道場の壁画。
銀髪と淡黄の瞳の色を持ち額に角を生やしている本来の姿の月鬼。
今の自分と、あの壁画の月鬼の姿が一致することを理解したとき、先程結界に弾かれ飛んで行った里桃の刀に映っていた満月は自分の一対の目だったのだと気付いた。
そう、今の朔はまさに月鬼の本来の姿をしていたのだ……。
それを知り、理解した。だが、なぜこうなったかの理由は分からない。
その答えを求めるように、朔は不安な表情で後ろを振り仰ぐ。
だが、視界に入った人達は皆総じて驚きの表情で、朔の望む答えを持っているようには見えなかった。
ただ、降り積もる綿雪の中。先程とは違った静けさがその場を支配していた。
狂ったように降る雪が、不吉の予兆のように思える。
回り始めていた歯車が、ギシリと