白銀の花びらが舞い踊る。
 青銀の絹糸が揺れ踊る。
 ゾッとするほど白い肌に唇だけがほのかに赤い。
 二つの月を宿した彼女は、その瞳に戸惑いの色を浮かべていた。
 人外の姿をした彼女を誰よりも近くで見た里桃は、そんな彼女を美しいと思う。
 そして、強力な結界を張りその力をまざまざと見せつけておきながらも、弱々しい表情をしている彼女を可愛らしいと思った……。
 だが、それは一瞬のこと。
 すぐに自分の使命を思い出し身構える。
 どんなに美しくとも関係ない。自分にとって彼女が“敵”だということは今までと何の変わりも無いのだから。
 それに、この状況はむしろ自分が望んでいたことでもあった。鬼としての力を扱えない彼女が自分と戦えるだけの力を身につけることは……。
 それを思い出し、ようやく驚きから覚めて行く。
 姿が変わったのは流石に驚いたが、ようやく自分が望んだ通り彼女と戦うことが出来るのだ。
 既に刀は弾かれ武器は無い。そんな不利な状況だったが、里桃はこの望んでいた状況に笑みを浮かべた。
 戸惑いの表情で周囲を見渡す彼女・朔は、そのままの顔で里桃に向き直る。
 未だ状況が飲み込めていないらしい彼女に里桃は告げた。
「その姿……どうしてそうなったのかは知らないが、ようやく力を扱えるようになったんだな?」
 問いに朔は答えない。戸惑いの色を更に深め、小動物の様な眼差しで自分を見ていた。
 その様子に里桃は笑みを消し小さくため息をつく。
 これでは力が扱えた所で戦うことなど出来はしない。
(戦いに意識を集中させる必要があるな……)
 そう考え、里桃は敵である少女に背を向ける。後ろに弾け飛んだ刀を拾いに行くためだ。
 刀が落ちた音でどの辺りにあるのかは直接見なくても分かっていたが、彼女が無防備に背を向けたじぶんに攻撃してくることを期待した。
 だが、悲しいほど予想通りに少女が手を出してくることは無かった。
 里桃はため息の様に小さな吐息をついて落ちた抜き身の刀を拾い上げる。
(やはりこうするしかないか)
 拾った刀の刃先をゆっくり朔に向けた。片手で持ち、戦うための構えと言うよりは宣戦布告するかのように。
 そうして対峙した朔は、やっと戸惑いとは違う表情を見せる。自分の身の危険を察したかのように目を瞠った。
(そう、それでいい)
 狙い通りの朔の反応に里桃は思わず笑みを浮かべる。そして、刀の向きをそのままに両手持ちに変えた。
 今度こそは戦うための構え。朔の結界を破れるくらい渾身の力を込め地を蹴った。
「っ!? 駄目っ、里桃!」
 朔の変化に驚き、皆まともに動ける状況ではなかった。だが、里桃が動いた途端制止の声が掛かる。
 昔から知っている声。見なくとも分かる。――瑠花だ。
 だが、止められても勢いのついた身体は簡単には止まれない。
 それに、止められたからと言って止めるつもりも無かった。
 結果里桃はそのまま朔に突っ込んで行く。
 徐々に近付く朔の顔が歪む。戸惑いはあれど、直面している危機を感じて。
 そして彼女は叫んだ。その多大なる力を惜しみなく発揮して……。
「いやぁ!!!」
 その叫びが耳に届くのと同時に、里桃は何かにぶつかった。そしてそのまま文字通り弾き飛ばされる。
「うぐぁ!」
「きゃあぁ!!」
 自分のうめき声意外にも瑠花の悲鳴が聞こえる。他にも涼と紫苑も弾き飛ばされたようだった。
 自分が何にぶつかり、何に弾き飛ばされたのか。それが朔の張った結界だと気付いたのは四人揃って月鬼達の敷地内から追い出されてからだった。
「これは……」
 何とか着地出来た里桃は、現状を理解しようと呟く。
 朔の結界に弾きだされたのは分かった。しかも器用に敵である者だけ。
 そして今も結界を敷地内に張り続けているのだろう。目には見えず里桃には感じ取ることも出来ないが、敷地内に入れる気がしない。
 おそらく、隙間なく敷地内全てに結界を張っているのだろう。
 それを肯定するように、後ろの方から苦しげな声が聞こえた。
「うっ……何て事……。こんな強力で精密な結界、いとも簡単に張るなんて……」
 見ると、上手く着地出来なかったのだろう。傷ついた瑠花が辛そうに起き上がっていた。
 立つのを手伝ってやると、瑠花は自分達が壊した門の向こうを悔しげに睨む。
「しかもあたしが元々張っていた結界を壊して……」
 その視線を辿るように、里桃もそちらを見た。
 元は立派な門であった瓦礫の山の向こうに一際目立つ存在。さらに増え舞い踊る白花の中でも、彼女は際立っていた。
 その姿に、またもやぎる新たな感情。
 息苦しくなる様なこの感情は何なのか。理解する前に、瑠花にガシリと腕を掴まれた。
「里桃、撤退よ。こんなの想定外だわ。戦うにしろ何にしろ、一度戻って作戦練らなきゃ」
 瑠花の言葉に里桃は何故か後ろ髪を引かれる様な気分を味わう。
 だが彼女の言うことはもっともだ。朔の結界に阻まれ月鬼達の敷地内に入ることすら出来ないのだからここに居続けても意味は無い。
 瑠花の言う通り、一度戻って改めて作戦でも練らなければ対策も浮かばない。
「あ、ああ……」
 里桃は理由も分からず躊躇う自分に戸惑いながら、瑠花の言葉に同意した。
 そして少し離れた場所にいる涼と紫苑に首の動きで撤退だと指示を送る。
「瑠花、帰るぞ」
 一言告げ、一人で立つのが辛そうな瑠花をそのまま支え運ぼうとすると「いらない」と軽く払われた。
「大丈夫、一人で歩けるわ」
 そう言うと瑠花はおぼつかない足取りながらもちゃんと一人で歩いて行く。
 どんな時も気丈な彼女に里桃は軽く息を吐き、最後にもう一度朔を見た。
 ここからでははっきりとした表情は分からない。今この時をどんな心持ちでいるのか、それを読みとる事も出来ない。
 それが理由かどうかは分からないが、もう一度近くで彼女を見たいと思った。
 だが、それが叶わないのだから仕方がない。
(まあいい……。どうせ明日、学校で会えるだろう……)
 半分自分に言い聞かせるようにそう考え、里桃は今度こそ振り返らず帰路についた。





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