学校に近付く程に生徒の数が増えていく。
 それらの視線は共に歩いている友人や目的地である学校へと向けられているはずだ。
 いつもはその通りであり、朔のことを気に留める者などいない。
 月人と共に登校するようになってからは彼の姿や容姿のためか多少視線を集めることはあったが、今日はどこか様子が違う。
 行き交う人のほとんどが、自分を見ている気がした。
 いや、事実見ていたのだ。
 視線を感じてその方を見るとバッチリと目が合って慌てて逸らすということが何度もあった。
 普段とは違う登校時の様子に、このとき朔はただ不思議だとしか思わなかった。
 だが校内に入り、月人と別れ自分の教室に足を踏み入れると日常との歴然とした違いを思い知ることになる。

 いつものようにドアを開け、誰に声を掛ける訳でもなく自分の席に座る。
 それだけのはずだというのにひしひしと視線を感じた。
 目を向けなくてもクラスの皆が自分に視線を送っていることが分かる。
 いつもとまるで違う教室内の雰囲気に息が詰まりそうだった。原因が分からないのも理由の一つだ。
 何故皆が自分を見ているのか。それを誰かに聞こうと思っても特に親しいと言える人がいるわけでもないので誰に聞けばいいのかも分からない。
 第一、今まで自分から誰かに声を掛けるなどということはほとんど無かったのだ。こんな気まずい状態では尚更声を掛けにくい。
 どうすることも出来ずに黙ってうつむいていると、女生徒が一人近付いて来て声を掛けてきた。
「……あの、村崎……さん、だよね?」
 恐る恐る――というより、戸惑った様な声音だった。
 だが、朔はそんな彼女の様子にこそ戸惑いを覚える。
 まず第一に、自分に声を掛けてくるということが物凄く珍しい。
 そして第二に、わざわざ名前を確認してくるところがおかしい。いくらなんでも名前まで知られていないなんてことはなかった。なのに彼女は聞いてきたのだ。
 朔は表情にもあからさまに戸惑いを貼りつける。聞くまでもなく、自分が村崎 朔だということは分かるはずだ。
 そんな朔の思いを知ったのか、女生徒はバツが悪いような顔をして「ごめんね」と謝った。
「ちょっと、貴方がいつもと雰囲気が違う気がしたから……。その、メイクとかしてる……訳じゃないよね……?」
 メイクしているかどうかなど判別出来るくらい近くにはいるというのに、そんなことを聞いてくる女生徒。
 朔は尚更戸惑った。
 メイクなど勿論していない。髪型だっていつもと同じ。昨日の自分と、何一つ変わってなどいないはずだ。
 戸惑いが、徐々に不安に変わっていく。
 それと共に、自分の周りにクラスメート達が一人、また一人と増えて行く。
「え? メイクしてる訳じゃないの?」
「でも、何て言うか……。うん。いつもより綺麗になってる気がするんだけどな」
 人が近付いてくるだけではなく、皆が自分に話しかけてきた。
(何……? これ……)
 この状況はまるでクラスの人気者。朔の日常とはかけ離れた出来事だ。
「なあ村崎、今日の放課後暇? 皆でカラオケ行こうって話してたんだけど、お前も来ねぇ?」
 最終的には声を掛けられるどころか遊びに誘われた。しかも男から。
(何なの? これは!)
 朔の望んだ日常とは全く違うもの。
 非日常から少しでも離れたくて学校に来たというのに、その学校でも非日常は続いている。
(私の日常は、どうなってしまったの……?)
 原因の分からない不安は恐怖に近いものとなっていく。


 軋んだ歯車は、軋み続けたまま回っていた。





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